「閉鎖性海域」とは文字通り「閉鎖的」な海ということで、海水の交換が悪いため汚れやすい。東京湾、伊勢湾(三河湾を含む)、瀬戸内海の3つが閉鎖性海域として水質保全の対象として排水規制がなされ、海域のモニタリングなどもなされてきた。1993年には、保全対象とする閉鎖性海域は88カ所に一気に増やされたが(表1)、これらの海域では、その後も対策は遅れ、例えば有明海では2000年冬のノリ不作に端を発した環境問題で騒がれたが、特別措置法ができたのは2002年になってからである。 閉鎖性海域の汚れ易さは、つまりは物質の生産と分解のバランスと、それらの産物の溜まり易さ(滞留時間)によって決まる。ここで「物質」というのは生物によく利用され、有機物生産に関係する、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)などの「親生物元素」や、とくに海域ではケイ藻類の生長に必要不可欠なケイ素(Si)などである。 物質の滞留時間は海水の滞留時間よりも長いのが普通である。なぜなら生物の作用が働くからである。例えば、筆者らが計算した広島湾北部海域における春季のN、 P、Siの滞留時間は、海水が5-6日であるのに対して、10日程度であった。物質の滞留時間が長いと汚れ易いが、一方で食物連鎖を通して滞留時間が長くなっているのが実態であるので、その分物質が有効に利用されて、生産性が高くなるということになる。物質負荷の人為的増大が閉鎖性海域の富栄養化を引き起こしてきたが、魚介類の生産が高く維持されるためには滞留時間が長いことは重要な要件である。したがって、閉鎖性海域の環境保全では、持続的漁業生産が可能であるような物質の負荷レベルを科学的根拠に基づいて設定することが求められる。
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