写真1.カジメの繁茂したシェルナース
写真2.イワガキの着生した1m円筒型魚礁 |
(1)海藻の繁茂
太陽光が十分に届くような、浅い水域に魚礁が設置され、1ヶ月も経過すると部材表面に珪藻が着生し、季節的に大型海藻の胞子が着生して、魚礁を着生基盤として繁茂するようになる。それらの藻類は、アイゴ、メジナ、アワビ、サザエ、ウニ、ウミウシなどの食植性動物の、直接的な餌となるほか、ワレカラ、小型エビ類などの葉上動物、小型魚類、エビ類などの隠れ場、棲息場として利用される。
(2)固着動物の着生
魚礁が設置され2〜3ヶ月が経過すると魚礁部材の表面に、コケムシ、ウズマキゴカイ、フジツボなどが見られるようになり、場所、季節によってカキ、ホヤ、イガイなど様々な種が固着する。これらの動物は、水域、水深、水温などの環境によって多少異なるが、日ごとに種類や量を増して、沈設後1年が経過する頃には、種や個体間で着生場所をせめぎ合いながら、魚礁表面のほとんどを覆うことになる。また同時に成長して部材表面に複雑な凹凸が形成される。先に着生した固着動物を覆うように新たな固着動物が着生し、下積みとなった個体が死亡して殻が残り、人工魚礁の部材表面はさらに複雑化する。
(3)潜入動物の棲息
固着動物の着生、生育によって複雑化した人工魚礁の部材には、エビ・カニ類、端脚類のほか、ゴカイ類などの小型の動物が棲息するようになるほか、ナマコ、タコ類、魚類の幼稚仔も潜入する。これらの潜入動物は複雑な空間を隠れ場、繁殖の場としながら、流れてくるプランクトン、デトリタス、固着動物などを餌として繁殖する。
写真3.魚礁潮陰のカイアシ群 |
(4)プランクトンの蝟集
海中に置かれた人工魚礁の潮陰には渦流域が形成され、そこにはマダイ、カレイ類などの幼稚魚の重要な餌となる、カイアシ類が密集群となって蝟集するほか、礁内部や底部にはアミ類が密集する。
(5)底生動物の変化
魚礁周辺の土砂は流れによって移動を繰り返し、砂に潜っていた二枚貝、環形動物などが露出して、マダイ、カレイ類などの餌となるほか、魚礁の固着動物や潜入動物が落下して、魚類などの餌となっている。 このように人工魚礁の設置によって、物理的環境が変わり、それに応じて多種多様の生物が生息するようになり、生物的環境は極めて複雑になる。つまり効果的な人工魚礁の設置は、水域を多様性の高い生態系に変化させる。そのような環境は安定した生物生産の場として、水域を豊かにすることになる。
柿元 晧(財団法人 漁港漁場漁村技術研究所)
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